しなやかな美獣たち
第5章 ♥:最後のキスは死神と【ファンタジー・NL】
「あ、あんなの、手品かなんかでしょ? あたしに変な薬とか盛ったんでしょ?」
「あんた薬どこで、どのタイミングで飲んだんだよ? それに俺のは手品じゃなくて、死神が持つ能力だ。そんなに疑うなら、窓の外を見てみればいい」
そう言うと男は、窓の方へ視線を向けた。あたしは男に言われるままに窓に近付くと、そこから外を見て絶句した。
窓の外に広がっていたのは、闇。そして、幾つかの石造りの城が、ぼんやりと光りながら、闇の中にふわふわと浮いていた。
「あれは他の神の城。俺の城も外観はあんな感じ」
男はあたしの後ろから窓の外を覗き込むと、そう言った。死神って、使いっぱしりのイメージがあったから、こんな城に住んでいるイメージがない。
「あのさ、殆どの神は、全能神の命によって役割が決まっているから、皆、全能神の"ぱしり"だぞ?」
「そうなの?」
「そうなんです。んじゃ、俺は仕事が未だ残ってるから、出掛けるけどさ。いい子にして待ってろよ?」
自称・死神男はそう言うと、黒い靄を纏いスッと消えた。それを目の当たりにすると、信じたくはないが、信じるしかない。それともあたしは夢を見ているのかな。隼人に捨てられて、頭が変になったのかも知れないな。なんて思った。