しなやかな美獣たち
第5章 ♥:最後のキスは死神と【ファンタジー・NL】
それから、身体の泡を洗い流されると、気付けばベッドの上で、死神男に組み敷かれていた。どうやらこの男は、この城の中の空間を自由自在に操る事が出来るらしい。ひょっとしたら、この城の中にあるものは全て、この男の意のままになるのかも知れない。あたしの心も、身体も、死神男に操られているのかも知れない。男の首に腕を回して、彼の猛り狂う熱の塊を受け入れながら、そう思った。
この空間には、時間の流れを感じさせるものがなく。また、疲れる事も、お腹が空く事もなく。互いの欲望を貪る。唯一つ、時間の流れを感じるとするならば、彼が仕事の為に城を留守にする事で、一日が経過した事を知るくらいだった。
人は毎日、どこかで必ず亡くなっている。その魂を刈り取り、次の場所へ──天界かあるいは他の世界か──送る事が、男の使命であり仕事だ。それは365日、変わらず行われる。男は出掛けて行っては、戻ってくるとあたしを抱き、抱いてはまた仕事へと出掛けていく。それを何回、何十回、繰り返しただろうか。
最初の頃は、唯、出て行って戻ってくるだけの男だったが、次第に"お土産"と称して、何かしら持って帰って来るようになった。時には花だったり、時には本だったり、洋服だったり。時の流れの干渉を受けないこの城の中で、物は朽ちる事なく存在し、気が付けば、ベッドしかなかった部屋には、沢山の物が溢れていた。