しなやかな美獣たち
第5章 ♥:最後のキスは死神と【ファンタジー・NL】
お別れ────
それは、あたしの「死」を意味する。この空間で年を取ることがなくても、間違いなくあたしは人間で。時がくれば死に、次の世界へと旅立たねばならないのだ。死神である彼には、あたしの寿命を伸ばせる力なんてなく。それを終わらせる事しか出来ない。
実は、この世界にいるあたしは、どうやら心だけの存在で。肉体は人間界にあるのだと男は言った。あの日、あたしは自殺未遂を起こし、心を喪ったらしい。結局、あたしの肉体は、一命をとり止めて、男が言った様に、風俗店で働かされる運命を辿った。死神である彼には、人の運命に干渉する力はなく、あたしの心だけを肉体から切り離すのが精一杯だったのだと。そして、心の抜け落ちたあたしの肉体は、人間界で今、寿命を迎えているらしかった。
「すまない。何にも出来なくて……」
男は泣きながらあたしの顔を見上げてそう言った。死神が、あたしの為に泣いている。人の命を刈る、非情な死神である彼が。
あたしは彼の頬に触れると、そっと涙を拭う。あたしは憎まれ口で「死神も泣いたりするのね」と言って。
「俺も、泣いたのは初めてだ。人の命なんて、どうでもよかった。唯、仕事で刈る為の存在。それしかなかった。だけど……お前の命だけは、尊い」
男はそう言うと、あたしの身体を抱き締めた。