しなやかな美獣たち
第5章 ♥:最後のキスは死神と【ファンタジー・NL】
あたしは愛されていた。あたしの為に涙を流してくれる、男の背中を擦りながら、あたしは何故か満足していた。この男が、心を刈ってくれなかったら、あたしは長い時間を苦痛に耐えなければならなかった。それを掬ってくれたのは、死神だった。
「ねえ、出掛けるまで、未だ時間はある?」
男の背中を撫でながら、あたしは彼に問う。男は顔を上げると、静かに頷いた。あたしは、それならと口を開く。
「最後に、もう一度だけ抱いて?」と。
男は泣きながら、あたしの身体を組み敷くと、顔中に口付けを落とす。「愛している」と、泣きながら。あたしは男の背中に腕を回し、「あたしも愛してる」と伝える。そして「有難う」と。
貴方がいなければ、女の悦びを知らないまま死んでいったかも知れない。愛される悦びも。だから、貴方には感謝している。この後、貴方が出て行って。戻って来た時には、あたしはもういないけれど。
もし、生まれ変わる事が出来るのだとしたら。また、あたしの心を攫って欲しい。また、貴方の傍にいさせて欲しい。