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旅は続くよ

第28章 信じて

M「…まー兄……?」

部屋の真ん中に立ったまま、まー兄は無言で動かない

M「あの…どこでも好きなとこ座って」

俺の言葉が聞こえないみたいに

A「…何、これ……」

ゆっくりと部屋を見回して呟いて

やっと動いたと思ったら、机の上に置いてあった鋏を掴んで

昨夜俺が束ねた本に掛かった紐を切り出した


M「ちょっ…、何してんのっ」

A「やだっ…!」

M「やだって、まー兄!?」

一心不乱にブチッ、ブチッと紐を切るまー兄の肩を掴むと

重ねられた本の山を乱暴に崩して

A「やだよぉ…っ!」

鋏を落として、振り向き様に俺にしがみついてきた


A「なんで離れようとすんだよ!
なんで俺から…そんなの許さない…っ」

両腕にしがみついて、駄々っ子みたいに揺さぶってくる

M「分かった、まー兄。分かったから」

A「分かってないだろ!?」

怒ってるのか、泣いてるのか

まー兄は搾り出すような声を張り上げた


A「潤は何も分かってねーだろ!?
だって俺、まだ何にも言ってねーもん!」

M「…なんでキレてんの?」

A「キレてねーし!」

M「キレてんじゃん」

A「だって!俺がちゃんと言わなかったから!
だから、そのせいで潤がこんな…っ」


ちっともワケ分かんない

でも、俺の腕を掴むまー兄が切なそうで

俯いたままの声が泣きそうで

俺は何とかまー兄を落ち着かせたくて

言葉を待つしかなかった


A「ごめん…。潤、ホントごめん…。
俺…、考えてばっかりで、自分の事ばっかりで、
潤をこんなに追い詰めて……」

M「…そんな…いいよ。俺が勝手に」

A「違うんだよ…っ!」


顔を上げて、真っ直ぐ俺を見る瞳が

潤んで、揺れてて

視線を合わせた僅かな時間に

流れて、頬を伝って…

その刹那

まー兄の唇が動いた


A「好き、なんだ…っ」


唇の動きと、言葉の速さが合ってないみたいに

嫌にチグハグに届いて

すぐに理解できずに固まってしまった






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