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旅は続くよ

第35章 電話

そんな電話があったからと言って、日々の暮らしに何も変化はない

そりゃそうだよ

そうでなきゃいけない

俺の人生に今まで何の関わりも無かったんだから

ただ…

心に掛かった霧だけが、日に日に重さを持ってくる

それが嫌で堪らなかった


どうして俺が気にしなきゃいけないんだ

なんであんな電話なんか寄越したんだ

病気だといえば、慌てて駆け付けるとでも思ったのか?

馬鹿にすんなよ

そう思えば思うほど、霧は湿気を含んだ雨雲のように垂れ込めた


何だってんだ

俺にどうしろってんだよ

会いに行く気なんかサラサラない

母さんがもしも生きてたとしても、俺は母が会いに行くことすら止めていただろう

だって、見捨てたんじゃないか

母を

自分の血を継いで産まれるはずの俺を

自分には関係ないと先に逃げたのはアチラなんだろう?


次第にイライラする気持ちを抑えて

それでも俺はいつも通りの日々を過ごしていた

きっとこうやってる間にも

俺の父と名乗る人は命の灯りを減らしていってるのだろう


そんな日々の中で

…どうしても見ちゃうんだ

弱ってる心が自然とニノの姿を追い求めていて

胸が苦しいんだ…


ニノの笑顔が眩しくて泣きたくなる

抱きしめてしまいたい

好きだ、と性懲りもなく叫んでしまいたい

縋ってしまいたいとさえ…

出来もしない想いばかり抱えて、上手く呼吸すら出来ないんだ

そんな状態で真正面からまともに見る事も出来ずに

横目でニノの様子を窺いながら、心の中で語りかけてた


…好きだよ

しつこくて申し訳ないけど、それでもやっぱり好きなんだ

でも、キミは新しい世界に踏み出したばかり

重い枷からやっと解き放たれようとしてる

だからこそ、キミは雅紀を選んだんだろ?

暖かく柔らかな布団に包まれる事を選んだんだね?


それで幸せならいい、と思う反面

どうして俺を選んでくれないのかと恨みがましくも思う

2人仲良くハシャイでる場面さえまともに見れなくて

その場から早く立ち去る事ばかり考えてしまう


『ありがとう』なんて、言わなくていい

感謝なんかいらないんだ

俺が欲しいのはそんなんじゃない


結局、俺は自分の事で手一杯

いつだってキミの幸せを願う男でありたいのに…


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