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旅は続くよ

第38章 今さら

目の前がジワリとぼやけて見えて

滲んだ滴を零したくなくて、ギュッと唇を噛んだ


S「ニノ……?」

言葉に詰まった俺を、翔ちゃんが不思議そうに見てる

でも、何も言えないよ

…翔ちゃんが好き

とても自然に湧いてきた想いに胸が苦しくなって、上手い言葉が見つからない


なんで今まで気づかなかったんだろう

なんでこのタイミングなんだよ

全てが遅すぎるじゃん

告白されて、フって、『出てけ』と言われた後に気づくなんて…

厄介すぎるだろ


S「…なに泣いてんだよ…」

困ったように翔ちゃんは、ちょっとだけ笑って俺の隣に腰かけた

N「…泣いてねーもん」

S「はいはい…」

ポンポンと頭を撫でるように置かれた手が優しくて

尚更切なくなって目元が震えたけど

意地でも泣くまいと口をきつく結んだ


泣くもんか

鈍くてチャンスを逃した自分が悪いんじゃないか

泣いて翔ちゃん困らせてどうすんのよ

今俺がやるべき事は泣くことじゃないでしょ


N「…しょっ、…翔じゃん、は…」

S「ははっ、声ガサガサじゃん」

やっと振り絞った言葉はたどたどしくて

S「ほら、落着けって」

差し出されたティッシュで目を擦って、鼻かんで

ふぅ…っと深呼吸してる間、翔ちゃんは黙って待っててくれた


N「…翔ちゃんは、怒ってるの?」

S「誰に?…父親?」

N「うん」

S「…なんでそう思う?」

N「俺なら怒る、と思うから。だって…勝手じゃん?」

S「…だな。うん、…怒ってるよ」

N「嘘。そんな怒ってなさそう」

S「なんだよ。どっちだよ」

怒ってたって不思議じゃないのに、あんまりそう見えないんだよ

真意がわからなくて言い淀んでると

翔ちゃんも何て答えていいのか困った風にしていた


S「正直…考えるのも嫌なんだよ。なんかいろいろ複雑だしさ…。
見る?俺の父親ってヤツがどんな人か」

N「え?見るって…?」

翔ちゃんが携帯を取り出してネットで検索したのは

政治家の名前だった

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