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旅は続くよ

第40章 もう少しだけ

S「保管庫だっけ?」

N「…え?」

S「坂口安吾の全集」

N「……ああ、坂口、ね」

ヤバい

思わずボーっとしちゃってた


S「大丈夫か?なんか具合でも悪い?」

N「えっ、ううん。坂口でしょ?保管庫じゃないよ。俺が前にカバー掛けたから分かんなかったかな」

状態も良い本だったから勿体無くて、ビニールカバー掛けて日の当たらない場所に移した覚えがある


N「ほら、ここ」

S「なんだ。見逃してたな」

奥にある棚の端の方から取り出すと、女性は嬉しそうな歓声を上げた

S「でも課長。何巻が抜けてるのか確かめてからの方がいいんじゃないですか?」

あ…なんだ。この人課長なんだ

女「ううん、全部いただくわ。ウチにあるのより綺麗だもの」

S「でも全部はさすがに重いですよ?」

女「そうねぇ…。じゃあ今日は半分だけ持って帰るわ。残りは明日にします」

S「半分でも十分重いと思いますけど」

女「女性扱いしてくれてありがとう。でもいいのよ、待ちきれないもの」

S「じゃあ3冊だけ。残りは明日職場に持って行きますから。そしたら他の本も買えるでしょ?」

女「あらあら、ホントに商売上手ねぇ!」

翔ちゃんの提案に女性課長は喜んで、結局予定外の本まで買い込んで帰って行った

翔ちゃんは、それをニコヤカに見送ると

S「さて…」

振り返って、スッと俺の額に手を当てた


N「え…、なに?」

S「熱はないみたいだけど」

そう言って、今度は首を両手で挟むように触れてくる

S「ここはちょっと熱い…かな」

N「な、ないよっ、熱なんか…」

そんな風に触れられたら体が熱くなっちゃうに決まってんだろっ!

そんな事言えないけども!


S「元気なさそうだから、風邪でもひいたかなって」

N「…違うよ」

S「じゃあ仕事で何かあった?」

N「………」


違う

そんなんじゃない

それをホントは翔ちゃんに言わなきゃいけないんだけど…

今は、言いたくない


自分がズルい事なんか分かってる

こうしてズルズル引き伸ばしたって何も変わらないって事も

…でもさ、

こうして心配されるのが嬉しい

触れられただけでも体温が上がるんだよ

もう少し

もうちょっとだけ

こうして…傍にいたいんだ…


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