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旅は続くよ

第44章 ニノの文句

「・・・ごめん」

過去に引きずられて心がドロドロと渦巻く中で

あの日と同じような声が聞こえた

「ごめんな、和也・・・」


ああ…、そうだ

この人はいつもそうだった

俺が家に1人帰ると決めた時も

家を処分し1人暮らしを始める時も

成人して自分の財産管理を引き継ぐ時も

同じように急に父親ヅラをして、こんな時だけ消え入るような声で俺に謝る人だった

何も変わってないや…


「・・・いいんです。もう」

終わらせてしまおう

よく分からないものは、もう欲しがらない

ホントに欲しいものは、自分で勝ち取ろう

もう震えてるだけの子供じゃないんだから

「俺は・・・、俺が生まれてくる時に父親を選べなかったのと同じように、俺も今更あなたの望む息子にはなれません。

 あなたに何を言ったところで、もう母さんは帰ってこない。だから、・・・もういいんです」

今日はちゃんとそれを言わなくちゃ

俺が前に進むために

翔ちゃんに聞かせるために


「そう思えるまで、すごく時間が掛かりました。考えるのも嫌で、バカみたいに蹲ってた…。

 でも、そんな俺にも手を差し伸べてくれる人がいた。気づけばたくさんの人に囲まれてた。

 肉親がどうとか関係ない、これは俺の財産です。そうでしょう?」

父親は下を向いたまま黙ってる

「ある人が教えてくれました。過去に縛られて蹲っていないで動けって、自分の足で歩けって…

 俺には、俺の生きる道がある。場所がある。やりたい事だって見つけたんです。だから・・・」

そう言って立ち上がった俺を、どこか痛そうな顔をした父親が見上げた

その姿がやけに小さく見えた

昔はあんなに大きく感じてたのに・・・


「・・・さよなら。元気で・・・」

伝票を掴んで、そのままレジに向かった

何か声が聞こえたような気がしたけど、振り返らなかった


「1380円になります」

小銭あったかな…

レジでモタモタしてたら、後ろから手が伸びてきて低い声がした

「これも一緒に。お釣りいらない。急ぐから」

「えっ、翔ちゃ…」

レジの女の子がポカンとしてる間に腕を掴まれた

「え…?ちょ、待って。ねぇ…」

俺の腕を引いて、翔ちゃんがズンズン歩いてく

カランカランと喫茶店のドアのベルが鳴り響いて

1歩店の外に出たら、初夏の日差しがやけに眩しかった


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