テキストサイズ

旅は続くよ

第44章 ニノの文句

Sside



喫茶店と同じ並びにあるカラオケボックスにニノを連れて入った

N「え?今、歌なんて歌う気分じゃ…」

S「俺もだよ」

訝るニノと一緒に入った小さな個室

勿論カラオケのコントローラーにもメニューにも触れずに、並んで座ったまま

S「…頑張ったな」

ただこの言葉を2人っきりの場所で言いたかったんだ


S「すげぇ胸に響いたよ。ニノの言葉…」

あれは、そのまま俺が抱えてるものだった

霧のようにモヤモヤしたまま燻っていた俺の気持ちだった

親が子供を取り換えられないように、子供も親を取り換えられない

事実は事実として、ただ血縁関係がそこに存在するだけで

俺が何を受け入れ、何を選ぶかとは関係ないんだって事

ニノの言葉を聞いて、自分の想いがようやく形を成して見えたみたいだった


N「俺の父親、見た?」

S「ああ、…チラッとだけな。俺、背中向けてたから」

N「そっか。…まあ、見てくれは普通のオッサンなのにね、アレでよそに女作る甲斐性あるなんて不思議だよ」

S「…似てなかったな」

N「ふふっ、うん。全然似てない。だからかな…、昔っからチグハグなんだね。

 一緒に喜んだり、悲しんだり、考えたり出来ないの。まあ、俺はあの人に育てられてないからさ…」

S「…親子って感じじゃない?」

N「うん、そう…。結局ね、どの親がアタリで、どの親がハズレかなんて選べないじゃない?

  そこに意味はないんだと思う。無いんだったら、それなりにやって行かなきゃ。生きて行かなきゃ…ってさ。

  俺の旅はまだまだ続いているんだもん。それを最後にあの人に言っておこうかなって思ったんだ…」

S「うん」


父親を前に、泣くのかもしれない

そう思ってた

声を荒げて文句を言うニノを想像できずに、泣いてしまうのかもしれないと心配していたんだ


『怒ろうよ、翔ちゃん』

俺の話を聞いてニノが言った言葉

『俺も大嫌いな父親に会うよ。会って文句言ってやる。

 今までロクに口も聞いた事ないけど…、翔ちゃんに見せてあげる』

それを聞いても、ピンときてなかった

怒れ、と言われても怒りをぶつける程も近しくない“実の父親”という存在に

何をぶつければいいのか、よく分かっていなかったんだ

ストーリーメニュー

TOPTOPへ