蒼い月の下で
第2章 歌姫
でも、この香りをなぜ、花だと知っているのだろう。一度も現実では触れたことがないのに……。
戸惑いながらも目線は蒼い月に固定されたままだ。
ーーあかい、花。
古城の次に映し出されたのは空に近い庭園。ここだけ、他と違う、何がとは言えないが。
ーーきっと、この花だ。
「……不思議ね。どうして、ここを懐かしいと思うのしら……」
ミラの唇からぽつりと零れ落ちた言葉は、自分でもよくわからないものだった。
それは必然か。何かに導かれるように、少年が庭園に現れた。琥珀色の髪と、夜色の外套が印象的なーー花よりも綺麗な少年。
その少年が、驚いたように蒼い月を見つめていた。