テキストサイズ

ミニスカート

第11章 キセキの街に最後の恋の旅

その日に病院で再検査をしたという既成事実があれば会社の人もまさか旅行に行ったなどと誰も思わないだろう。

再検査の結果は悪く、たぬ吉は薬を増やされた。今の職場は本当にブラックで、殺人的多忙に加えて悪いことがあるとみんなたぬ吉のせいにして責め立てるところがある。

そのストレスから酒の量は増えてちょっと過食だった。辛いものやカロリーが高いものが好きなのも原因だろう。

家庭内別居に加えてブラックな職場・・たぬ吉には大量に酒を飲んだりして死に向かいながら生きたいと願う相反する気持ちが同居している。

たぬ吉は少し酒の量を減らして、食事は野菜とかカロリー低めの体に優しいものにしようと心に決めた。

病院が終わるとたぬ吉は鈍行電車に乗ってバツ2さんと娘のいる街を目指した。

鈍行だと4時間~5時間かかる旅だが、単身赴任していた時はよく往復をしたものだ。なんだか懐かしい。

出張とかで会社の人や取引先の人が電車に乗ってこないとも限らないので、たぬ吉は帽子を目深に被って、新聞も読んで顔が見えないようにしていた。

だんだんと海が見えてくる。キレイな海だ。
この海の向こうにはバツ2さんと娘のいる街がある。

長い時間をかけて、偽りの出張まででっちあげて、バツ2さんと娘に会うためだけの目的で旅行をする。

バカバカしいし愚かなことだと思うが、たぬ吉には大切な旅行だった。

職場でのストレスはもう限界に達していてマイナスエナジーで満ち溢れている。そんなたぬ吉にプラスエナジーを与えて浄化することができるのはバツ2さんと娘だけだ。

思えば単身赴任は楽しかったけど、職場ではイヤなことばかりだった。バツ2さんと娘がいたから楽しかったんだ。

もしかしたら、再検査の結果が悪くて自分は確実に死に向かっているので、本能的に自分の遺伝子を残してくれる可能性が高いバツ2さんに恋焦がれているのかなとも思う。
現実的にはバツ2さんと遺伝子を残すことはないのだけれど・・

家庭内別居の妻はたぬ吉にツラく当たってばかりで、職場でボロボロになっているたぬ吉に追い討ちをかけている。

そんな目に遭いながらも偽りの出張をでっちあげてバツ2さんと娘に会いに行くことに背徳感とか罪悪感を感じるのは自分はまともな人間だと思う。

普通の人間ならこんなツラい人生であれば破綻しているだろう・・

ストーリーメニュー

TOPTOPへ