お嬢様と二人の執事
第5章 漂
翌朝、目覚めた沙都子の隣に神山の姿はなかった。
神山の立場を考えればそれは当然のことだけど一抹の寂しさを覚えた沙都子は気持ちを切り替えるように一つ伸びをした。
タイミングを見計らったように寝室の扉が開き、高宮が入ってくる。
「おはようございます、沙都子様。今朝はご機嫌がよろしいようで…。お召し替えの準備をしてもよろしいですか?」
「おはよう、高宮。」
本当は神山のことを聞きたかった沙都子だが…昨夜の二人の様子が脳裏によぎり聞くことが出来なかった。
「今日から、大学に出席します。今日は2時限目からなので…9時には出ますね。ここって最寄りの駅はどこになるのかしら?」
至って普通に聞く沙都子。
父母の不慮の事故からしばらく通学していなかった大学に出席出来るぐらいには元気になったことは喜ばしい。
しかし…天然というかのんびりというかマイペースな沙都子はこの段になって尚、通学=電車になっている。
今の沙都子を取り巻く環境は休学前とは明らかに違うものになっているのにも関わらずだ。
東堂での生活にも慣れ始め、ようやく白河や家令の城以外のことは呼び捨てにすることも厭わなくなった。
それは上に立つものとして必要なことで喜ばしいことであった。
にも関わらず、相変わらず感覚は休学前のまま。
高宮は少し呆れながらも丁寧に訂正する。
「沙都子様…大学までは車でお送りしました。お時間までにご準備をお願いいたします。」
そう言うと高宮は出て行き、入れ違いに貴子と優子が入ってきた。