お嬢様と二人の執事
第5章 漂
都心にあるにも関わらず緑豊かなキャンパス。
歴史のある重厚な建物と新しく建った近代的な高層の校舎が混ざる不思議な光景にもすっかり慣れ、いつの間にか迷路のようなキャンパスでも迷子になることは無くなった。
気がつけば自分の居場所になっていたこの場所からあと半年もすれば離れる。
それは嬉しくもあり不安でもあった。
先を歩いていた沙都子もキャンパス内に入ると歩調を麻紗に合わせる。
「沙都、また痩せた?なんか小さくなった気がするよ?」
麻紗は心配そうな顔で沙都子をみる。
「そんなことないよ…。確かに麻紗ちゃんよりは小さいけど!
もう…大丈夫…だから。」
大丈夫と言いつつも日常に戻った分、東堂の家での出来事の非日常さが思い出されて溜め息をつきそうになる。
そっと飲み込むと明るめの声を作って麻紗に向かって言う。
「麻紗ちゃん、少し急がないと…前の方しか席がなくなっちゃうよ。」
今日は大講堂での講義。
必修科目だから出席しないとまずいけど正直おもしろい講義ではない。
「うん、それはさすがにまずい。あんまり前だと絢に怒られちゃうもんね?」
「そうだよ、絢ちゃん怒ると怖いよ。」
くすくす笑いながら沙都子が言う。
そこに別の声が混じる。
「だれが怖いのかなぁ?沙都子?」
「絢ちゃん!」
そこにはスレンダーな美人が立っていた。