お嬢様と二人の執事
第5章 漂
「ほんと、すごいかっこいい人だったの!」
麻紗がうっとりとした顔で言う。
「麻紗がいうってことはよっぽどイケメンなんだね。」
絢も麻紗もとにかくモテるのでイケメンには十分すぎるほど免疫がある。
その麻紗が『イケメン』と言うんだから絢もにわかに興味を示した。
「で?なんでそんなイケメンが沙都子のことを送ってきたの?彼氏でも出来たの?」
二人は沙都子の過去の手痛い経験を知っている。
泣いて泣いてぼろぼろになった沙都子を慰めたのもこの二人だ。
二人にとっては同じ歳のはずなのに沙都子は守るべき妹のようなものだった。
沙都子とともにいると穏やかなな気持ちになる二人。
タイプの違う美人の麻紗と絢。
美人であるが故に女の嫉妬というものに晒されるし、傷つくことも多くある。
そんな時に癒してくれる沙都子の存在が二人にとっては救いであった。
だからこそ、二人は自らの幸せを望むと同じ気持ちで沙都子の幸せを願っている。
「彼氏なんかじゃないよ。」
沙都子は少し戸惑ったような口調でいう。
「えー?じゃぁなんで一緒の車に乗ってたの?彼氏じゃないならどういう関係なの?」
「ちょっと麻紗。落ち着きなよ。そんなにきつい言い方したら、沙都子ますます黙っちゃうよ。」
絢が冷静に麻紗を止める。
「沙都子?別に麻紗も責めてるわけじゃないからね?でもさ、教えてほしいんだけど…だめ?」
絢にそう言われて断れたことがなかった沙都子は小さく息を吐いた。