お嬢様と二人の執事
第5章 漂
「あの…このあとすぐに帰らないとだめかしら?」
沙都子は高宮に視線を向ける。
このあと、屋敷でダンスや書道など東堂の家のものとして身につけるべきことのレクチャーがあるのならばそちらを優先させないといけないと思った沙都子は確認も含めて高宮に聞いた。
「いいえ。どこか立ち寄る場所があるようでしたらそちらに参りますが?」
高宮の答えを聞いて、沙都子は瞬時に決断した。
「では…高宮。いえ一也さん、私とデートしましょう?」
それは高宮に取ってはまったく予想もしていなかった一言だった。
普段ならばそつなく受け答えする高宮も完全に予想外の一言になにも返せない。
昨夜のそして今朝の神山の態度を見れば自ずと沙都子の気持ちがわかってしまう。
自分の望みが決して叶わないというのを嫌という程知らされたのに。
まさかここで「デート」などという一言が出てくるとは想定さえしていなかった。
「沙都子様…。」
「やっぱりだめかしら?」
意識しているのかしてないのか?沙都子は上目遣いで高宮を見る。
その視線に高宮は早々に白旗をあげた。
「わかりました。どちらに参りますか?」
高宮は覚悟のようなものを決めて沙都子に尋ねた。
「えーっと…海とか…ダメですか?」
沙都子は思い浮かんだ場所を高宮に告げた。
「わかりました。」
高宮は一言そういうと、ハンドルを切り、車を逗子へと向けた。