お嬢様と二人の執事
第5章 漂
海沿いの道路に車を停めると二人は海岸に降りた。
夏ならば多くの人々で溢れかえるような海岸もこの時期はほとんど人がいない。
岸から少し離れたところにぽつりぽつりとウインドサーフィンのカラフルな帆が浮かぶ。
波打ち際で沙都子は寄せては返す波と戯れていた。
その沙都子を少し離れたところから高宮が見ている。
『デートしましょう』
そう言った沙都子は特に高宮と何かを話すわけではなく今は一人、ダンスを踊るかのように波打ち際で跳ねている。
ゆっくりと落ちはじめた日差しが海を照らす。
キラキラと輝く海と波打ち際で遊ぶ沙都子。
眩しそうにそちらを見つめる高宮は今後のことを考えるともなく思っていた。
「一也さーん!」
沙都子が離れたところにいる高宮に声を掛ける。
その瞬間、大きな波が沙都子の足元を濡らす。
引き波の力に沙都子の足元の砂が攫われ、バランスを崩した沙都子。
高宮が沙都子のそばに駆け寄った時にはずぶぬれになっていた。
冷たい海風が容赦なく沙都子の体を冷やす。
高宮は急いで自分の上着を着せ掛ける。
「失礼いたします」
一声掛けるとそのまま沙都子を抱き上げた。
「高…一也さん、私、歩けますから。」
羞恥からなのか沙都子が高宮に訴える。
しかし、高宮は聞く耳を持たずそのまま、車に沙都子を押し込める。
「沙都子様の足より私の方が圧倒的に早い。あのまま貴女の歩みに会わせていたら体を冷やしてしまう。」
皮肉めいた口調の高宮。
高宮の一面をみた気がした沙都子だった。