お嬢様と二人の執事
第1章 沙都子
「ああ、すみません。私の悪い癖です。わかりづらかったですね?」
「いえ、私に知識がなくて…」
「いや、それが普通です。簡単にいいますと、莫大な相続税が発生します。
試算したところ沙都子さんのお家と土地で丁度相殺出来るぐらいになりそうです。
どうされますか?」
「え?どうするって…どうしたらいいですか?」
泣きそうな顔で沙都子が成瀬を見る。
「1つはお家を処分して相続税を納付してそれ以外の資産を相続されるという方法。もう1つは全て放棄するという方法があります。」
そう言って沙都子を見る成瀬の表情は先ほどまでの柔和なものから弁護士の鋭いものに変わっていた。
「幸い、東堂会長のところに行かれるということであれば住むところや今後の暮らしは問題ないですよね。
沙都子さんから委任頂ければこちらで全て手続きしますが?」
どのみち、祖父のところに行くのなら、家は必要なくなる。
たくさんの思い出が残っている家…。
正直、辛くないわけがない。
でも、あちらこちらに父母の思い出の残る家に一人でいるのは辛かった。
そして眼差しに決意を込めて成瀬に伝えた。
「お手数をお掛けしますが…お願いできますか?」
「かしこまりました、承ります。手続きが全て終わりましたなら神山さんを通じてお伝えします。」
成瀬の言葉に沙都子は頭を下げた。