お嬢様と二人の執事
第1章 沙都子
「あの、成瀬さん、なぜ神山さん経由なんですか?神山さんって一体…。」
訝しむ沙都子に成瀬はあぁと得心した顔で簡単に説明した。
「神山さんは東堂会長の家に仕える執事なんですよ。執事は家に関わることを采配しますからね。
彼に報告する形になります。」
成瀬の顔は極めて当たり前のことだと言っていた。
「執事って…漫画やドラマの中だけにいる存在じゃ無いんですか?」
「まあ、確かに普通に過ごしてると関わることは無いでしょうね。
あとはご自身の目で確かめてみるのが一番ですよ。」
戸惑う沙都子に成瀬は笑顔で言う。
「沙都子さん、色々と変化が起こって戸惑うこともあるでしょう…。
でも貴女の周りにいる人達は間違いなく貴女の幸せを願ってます。
だからそれを信じて、真っ直ぐ進んでください。
貴女の幸せを祈ってます」
そのまま、成瀬は一礼する。
亘に声を掛けられた沙都子は礼を言って事務所を後にした。
事務所のビルを出ると車寄せにあった黒塗りの車がそっと近付き、停まった。
メルセデスのマイバッハ。
いわゆるベンツの最上位モデルの車だが沙都子にはその価値がわからない。
ただ高そうな車だと思いながら見ている。
運転席から黒のスーツを着た男性が降りてきて後部座席のドアを開いた。
「会長、お嬢様、どうぞ」
運転手という言葉が頭に浮かぶ。
それは沙都子の日常にはかけ離れた存在で驚きのあまりに沙都子は動けなかった。
そんな沙都子を亘が促す。
導かれる様に沙都子は後部座席に座る。
バンっとドアの閉まる音が聞こえ、車が滑るように動き出した。