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お嬢様と二人の執事

第6章 過去

ある日、母親が夜中に東堂に呼び出された。

なんでも急に担当する部署の責任者が腰を痛めて、急遽主人の身の回りの世話をすることになったとかで。

俺は襖をぎっちりと閉め、部屋に閉じこもっていた。

母親が出て行って1時間もしないうちに、男は俺の部屋に入ってきた。

いとも簡単に襖は割られ、悪魔のような笑みを浮かべた男が突然俺に覆いかぶさってきた。



どうしようもなかった。


抵抗することもできなかった。



布団についた鮮血を今でも覚えてる。

真夜中、帰ってきた母親はその光景を見て、声も出さなかった。

ただうなだれて、居間の床に座り込んでいた。



翌日、学校に居ると担任が俺を呼びに来た。

母親が死んだと。

あの男も一緒だった。

男の運転する営業車に、何故か母親は同乗していた。

東堂の屋敷近くで、男の車は電信柱にぶつかって大破していたそうだ。

事故の目撃者は誰もいなく、ブレーキ痕もないことから、原因はわからないまま事故として処理された。





今思えば、あれが母親としての最後の仕事だったんだろうと思う。

俺のことを守ろうと、そう思ったんだろう。

獣になった母親は、最後に母親に戻っていったのだと。

そう、思う。





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