お嬢様と二人の執事
第1章 沙都子
「会長、お疲れ様でございました。」
車が静かに停車する。
見事な築山を擁する車寄せに車が停まる。
車寄せの奥には美しい平屋作りの日本家屋がある。
沙都子の語彙だとまるで高級旅館のようなその建物の玄関に使用人と思われる人々が次々と出てきた。
「じゃ、沙都子、待っているから。ああ、でも焦らなくて構わない。ではあとで」
そう言って沙都子の手を取ると手の甲に口吻を落とし、そのまま人々に囲まれて館の玄関に入っていってしまった。
「それではお嬢様の館へ参りましょう。」
運転手はそう言うとそのまま車を出す。
「あの…ここ、全部お祖父様のお家なんですか?」
「ええ、ここは東堂会長の本宅です。ほかに幾つか別邸もお持ちです。
まぁ、東堂家は元は公家の御家柄ですから」
運転手はまるで自分の事のように自慢げに言う。
「はぁ…そうなんですね…。」
沙都子は完全に空気に飲み込まれていた。
車がリムジンではなく普通の車のように見えたのでお金持ちとは思っていてもここまではと思ってもいなかった。
窓の外の車庫のようなところに停まるたくさんの車。
その中にいかにもな車があるのが見えて、早くも後悔しはじめた。