お嬢様と二人の執事
第1章 沙都子
「お待ちしておりました、沙都子様」
気がつくと後部座席の扉が開かれ声が聞こえた。
その声に顔をあげると、そこには神山がいた。
「神山さん…」
神山が優雅な仕草で沙都子に手を差し伸べる。
「いつまでそちらに座ってらっしゃるのですか?」
少し辛辣な口調に沙都子は若干のいらだちと寂しさを感じた。
広すぎる屋敷に心細くなっていたところに神山の顔を見て救われた気分になったのに…。
沙都子は目に浮かぶ涙を無理矢理抑え込み、目に力を籠めて神山を見る。
「今、出ますから」
そう言って、バッグを手に車を降りた。
降り立って見上げる目線の先には洋館が建っていた。
特徴的な三角屋根。
1階部分は煉瓦タイル、2階は漆喰が塗られた独特のデザイン。
腰壁のように積まれた石積みが重厚さと歴史を感じさせる。
「こちらが沙都子様の住まう館になります。以前、雪芽様がお住まいになっていた館です。」
立ちすくみ見上げる沙都子に神山が告げる。
「まずは中にお入りください。沙都子様のご自宅にあったものは明後日までにはこちらにお持ちします。」
神山に促されて玄関に足を進める。
重そうな木の扉が内側から開く。
中に足を踏み入れた沙都子。
そこには何人かの人影があった。