
お嬢様と二人の執事
第8章 惑い
亘様のお陰で日の当たるところに立った自分にできることは努力することだけだった。
もともと不器用な神山。
その分、誰よりも真面目に一生懸命に与えられるものの全てを吸収する勢いで学び、様々なことを体得していった。
屋敷の中で多くの大人たちに囲まれ、対等な立場で接することのできる自分を誇りに思っていた。
そして…子どもが持つ万能感のようなものに浸っていたんだ。
だから…自分なら高宮を救えると思ってたんだ。
一段高い場所から高宮に手を差し伸べようとしていた自分。
でも…それは大きな間違いだった。
自分がいる場所が大海だと思っていた。
実際には狭い池の中にすぎなかったのに。
あの日…うなされていた一也が「助けて」と伸ばした手を安易な気持ちで受け止めた。
腕の中で泣き続ける高宮が、自分に頼って泣き続ける可愛くて仕方なかった。
泣き止んだ高宮が語りはじめた彼の過去。
それは自分の予想の範疇を大幅に越えていた。
あんなこと、小説やドラマの中だけのことだと思っていた。
受け止めるにはあまりにも大きい事実に潰されかけた自分が言えたのは「辛かったな…」という一言だけだった。
高宮が自分を見ながら言った「ありがとう」の一言がとても重かった。
一緒に見せた綺麗な笑みが…痛かった。
あんな辛いことがあっても笑う高宮は宝石のように綺麗だった。
逃げ続け日陰にいた自分を思い出す。
自分は感謝される資格などないのに。
