お嬢様と二人の執事
第8章 惑い
帰国した高宮は、それまで通り東堂の家に仕えた。
ただそれまでと違うのは、彼の仕事の性質が執事としてのものよりも亘様の秘書のような役割がメインになったということだった。
帰国した高宮に、自分が伝え聞いた話を聞くことはできなかった。
ただ一つ言えたのは、確かに高宮の周りの空気が変わった。
大人になったといえばそこまでかもしれない。
でもそうではないと思う。
まるで初めて会った時のように張りつめた空気。
表情に含まれる野心。
以前ほどそれを隠さなくなった気がする。
高宮は学んできた経済の知識に独自の視点から分析したデータなどを亘様に提供していた。
これが非常に優れたものだったらしい。
高宮はグループ企業内でも徐々にその才を知られるようになっていった。
東堂は巨大な企業体だ。
巨大すぎる企業体はその動向ひとつで日本経済、ひいては世界経済にも一定の影響を与える。
亘様はその企業体のトップを長く勤めている。
亘様とていつまでも一人ですべてを仕切ることは難しい。
そんな中で高宮の才覚は非常に大きな力となりつつあった。
高宮は…東堂を乗っ取る気なのだろうか?
自分の中に生まれた疑念。
でもそれを否定したい自分がいる。
本当の高宮を知っていると言う自負。
しかし今、目の前にいる高宮は確かに伝え聞いた彼の姿に近い。
高宮のことを信じたいと思う自分と伝え聞いた話を信じそうな自分。
なにが正しいのか…俺は揺れ動いていた。