お嬢様と二人の執事
第9章 雪の降る街
「私は…誰のものなの…?」
「え?」
「わからない…」
東堂に来てからの環境の変化に、沙都子の思考は追いついていなかった。
両親を失い、いきなり東堂の孫娘になり、そして二人の男に愛されている。
たった数ヶ月の間の出来事に、沙都子の思考は停止寸前だった。
身体は動いている。日常のやらねばならぬことはなんとかこなせている。
だがそれだけだ。
本当に考えなければならない大事なこと。沙都子はそれを考えることができなくなっていた。
元々明晰なほうではない。
愛溢れる家庭に育った、のんびりとしたごく一般的な子女だった。
亘という庇護者がいるが、たった一人世間に放り出され、錨も下ろせないまま波間に漂っているのだ。
今も、これが現実なのか…。
沙都子の思考は追いついていない。
「沙都子…」
「私は誰のものなの…?」
高宮の中に、その答えはない。
沙都子を自分のものにしたいと強く願ってはいるが、それは沙都子が自ら願ってというのが前提だ。
今の沙都子に、それを強制することはできない。
いや…
神山がさせてくれないだろう。
「沙都子様…あなたは…あなたのものです…」
そう囁くのが、高宮には精一杯だった。
沙都子の口が大きく空気を吸う。
「私の…?」
高宮の頬を滑る手に力が入る。