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お嬢様と二人の執事

第11章 桜

「ねー東堂さんって、新婚なの?」

昼休みが明けようとするころ、研修のテーブルについた途端、質問された。

「えっ…違います…」

「じゃあ何で苗字変わったの?」

「あ…お祖父様の籍に入ったので…」

「ちょっと…知らないの?この子…」

沙都子にいろいろと質問していた女性新入社員を、同じグループの女性が引きずっていく。

最初は目を白黒させていた沙都子だが、これが何回も重なるともう慣れてくる。

どうせこそこそと東堂の会長の孫だと噂されているのだろう。

絢や麻紗なら、こんなやり方はしない。

後ろでクスクス笑い声が聴こえる。

これもいつものことだ。

”会長の孫の癖にトロい”

”全然お嬢様らしくない”

最初のうちは、いちいち傷ついていたが、最近はこれにも慣れた。

絢や麻紗に出会うまで、こんな目には幾度も遭ってきているのだ。

こんなときは心を閉じて、ひたすら時間が過ぎるのを待つのだ。

そうすれば…

目の前の円形のテーブルを、コンと叩く拳がある。

見上げると、高宮が立っていた。

「か…高宮さん…」

高宮は沙都子の耳にそっと囁きかけた。

「私が何を言っても、いつものようにお答えなさい。今はあなたの上司ではありません」

「え…?」

高宮は起き上がると、沙都子を立たせた。

「東堂さん、会長がお呼びです」

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