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お嬢様と二人の執事

第11章 桜

「沙都子…どうしたの?」

神山の大きな手のひらが、沙都子の頬を包む。

「ごめんなさい…」

「いいよ。気にしていない」

神山が優しく沙都子を抱きしめると、沙都子の口からため息が漏れる。

ここまで満たされているのに、尚、自分は高宮になにを求めているのだろう。

いや…何を与えたいのだろう。

わからないまま、神山の広い胸に顔を埋めた。

「沙都子…そろそろ行くね…」

この日は夕食までの短い時間を、二人は逢瀬に当てていた。

「悟…今夜も来てくれる?」

「来なかったことがある?」

ふっと微笑むと、神山はキスを一つ残し寝室を後にした。

沙都子の部屋を出ると、ぎりっと拳を握る。

沙都子の全てが欲しい。

昼間の時間も全て。

…子供じみているのはわかっている。

だが、東堂の本社での沙都子をフォローできない自分がもどかしかった。

沙都子が辛い目に遭っているのは、今日初めて聞いた。

しかもそれをフォローしたのが、高宮だ。

神山は居てもたっても居られない気分になったが、どうすることもできなかった。

あの沙都子に会社勤めなど…想像もできない…。

とてもではないが、見ていられない。

…でも高宮なら…

もしかして沙都子をフォローしていけるのではないか。

自分にはできない何かを、彼ならば…

館の階段を降りながら、神山は深い思考の淵に居た。

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