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お嬢様と二人の執事

第11章 桜

神山が運転席の麻紗に身をかがめて、名刺を差し出す。

「お初にお目にかかります。私、沙都子様の住まう館の執事の神山と申します。
なにかございましたら、こちらにお電話をお願い致します。すぐ駆けつけますので」

「は、はあ…」

麻紗と絢はまた呆気に取られた。

「し、執事…」

絢の唾を飲み込む音が聞こえた。

麻紗のシルバーのアウディA1の前に、真っ赤な車が滑り込んできた。

レクサスのNX300h "F SPORT"。

高宮の愛車だ。

館の車留に停まると、中から高宮が降りてきた。

「あっ…高宮さん…」

思わず麻紗が声を上げた。

「あ…これは…」

高宮がまずいという顔をして沙都子を見た。

「あ…あの…麻紗ちゃん、絢ちゃん、あのね…あのね…」

沙都子の頭は、どこから説明していいか、とっちらかってわからなくなってきた。

半べそをかく沙都子の顔をみて、麻紗が噴き出した。

それを合図に、その場に居るもの全てが笑い出した。

「え?え?え?なに…?」

沙都子には、天性でこういうところがある。

その場に居るもの全てを和ませる力がある。

高宮は笑いを浮かべながら、そんな沙都子をじっと見つめた。

この力をなんとか、東堂の本社で生かせないものだろうか…

今の高宮の頭は、沙都子の上司としての物になっていた。

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