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お嬢様と二人の執事

第12章 主人と執事と上司

「お祖父様の具合はどう?」

車に乗り込むと、沙都子は口を開く。

「はい。安定はされておりますが…気弱になられて居られますね…」

神山が眉を下げる。

運転席の高宮は、カバンから書類を取り出した。

「恒雄様の調査書です」

恒雄とは東堂の親族で、同じ東堂を名乗っているが直系ではない。

現在、東堂の本社で常務を務めている。

沙都子は書類を一瞥すると、神山に渡した。

神山は書類に目を通すと、高宮に返す。

「恒雄おじさまには引退していただくわ」

「畏まりました。では私から」

「よろしく、神山」

「お祖父様の心配の種を潰しておきましょう」

「はい、沙都子様。社内の根回しは私が」

高宮が頷くと、沙都子は微笑む。

「…時間があまりないわね…」

アームレストに肘を置くと、口元に指を当て、外を眺める。

「お祖父様にしっかりご恩返しできるかしら…」

沙都子の目が少し潤む。

神山が沙都子の手をそっと握った。

「ご心配には及びませんよ…沙都子様…」

もしも亘が身罷れば、沙都子にとって二度目の肉親との訣れとなる。

沙都子には耐え難いことであった。

でも今は…この二人がいる。

「本日の夕食はキャンセル致しましょう」

「え?」

「館に、帰りましょう」

「神山…」

「私もそれがいいと思いますよ?沙都子様」

「高宮まで…」

くすっと笑うと、沙都子は頷いた。

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