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お嬢様と二人の執事

第14章 遠い道

「兄さん!どうしたんだよ!」

「あ…悪い。最近、食べてなくて」

「えっ!?」

その時、三人に歩み寄ってくる革靴の音がした。

「智紀」

一斉に振り返ったその先には、背の高いスーツを着た男が居た。

男は眉を片方だけ上げて、神山を見た。

「なんだ悟が来ていたのか。じゃあ任せていいな?」

「あ…はい。親弘兄さん」

「智紀…ちゃんと食ってるのか?」

そう言って親弘は智紀の頬を手で包んだ。

「痩せたんじゃないのか?お前…」

「そんなことないよ…兄さん…」

「絵ばっかり描いてるから、車も避けられないんだ。今度スカッシュでもしよう」

「嫌だよ…兄さんには敵わないもの」

「そんなことないだろ」

そう言って親弘はまた微笑んだ。

「仕事を抜けだして来たんだ。悪いが戻るな」

「うん」

「悟、じゃあ頼んだぞ」

そう言って親弘はコートを羽織って、颯爽と歩き出した。

神山に向かって微笑むことは、遂になかった。

「ごめんね、悟。俺、家に帰るから…」

「飯、どっか行こう」

神山の顔が強張っていた。




一時間後、三人は料亭に居た。

こじんまりとした、神楽坂の路地裏にある料亭で、高宮の行きつけだ。

仕事でどうしても密談が必要な場合、ここを使う。

女将は口が硬いし、なによりここには東堂の者がこない。

高宮のようなポジションの者には格好の料亭だった。

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