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お嬢様と二人の執事

第14章 遠い道

美術館のプロジェクトは、智紀の絵を中心に据えて、粛々と進行していた。

神山は一時のそわそわとした状態から抜けて、今は普段通りに立ち働いている。

沙都子だけが、時折ぼんやりと窓の外を眺めることが多くなっていた。

そんな後ろ姿を、高宮はただ眺めているだけだ。

結婚となると、相手もあることで…。

今の沙都子に最適な相手などいない。

この世に神山と高宮のことを容認する夫などいるだろうか。

そう思って高宮はふと頭をよぎるものがあった。

だがすぐに頭を振って打ち消した。

東堂の婿養子になる男は、只人であってはいけないのだ。


沙都子が本邸で寝泊まりする日が続き、神山も本邸へ行っている。

深夜、高宮が神山の部屋を訪れる。

「たまにはどうですか?」

ワインのボトルを持ち、グラスを掲げた。

「ああ。入れよ」

ベッドと必要最小限の調度品しかない部屋だが、神山の部屋らしく無駄がない。

居心地のいい部屋が高宮は好きだった。

テーブルにボトルとグラスを置くと、神山が冷蔵庫からチーズを出してきた。

「厨房で分けてもらったんだ」

そう言っていたずらっぽく笑う顔をみていたら、少し高宮の胸に感傷が広がった。

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