お嬢様と二人の執事
第1章 沙都子
「…沙都子様、あれは笑い過ぎでございます」
神山の窘めるような口調も気にならないほど、沙都子は笑っている。
「ご、ごめんなさい…でも…城さんったら…」
「城は、一年に一度ほどああなります。慣れていただかないと困ります」
「はい、すいません…」
言っている傍から、また笑い出す。
ころころと笑う沙都子から、明るい光が溢れてくるようだった。
神山はまっすぐ見ていられなくて、目を逸らす。
「すいません…今、止めますから…」
そう言って、無理に笑うのをやめようとする。
でも、すぐに噴き出してしまう。
「もう…我慢なさらずとも…」
呆れたように神山がいうと、盛大に沙都子は笑い出した。
「ご、ごめんなさい。我慢しなきゃと思えば思うほど、おかしくて…」
「ご存分にどうぞ…」
そう言うと、神山は懐からハンカチを差し出した。
「……。」
急に沙都子は黙りこんだ。
ハンカチを見つめたまま、微動だにしない。
「沙都子様?」
「あの日も、こんな風にハンカチを…」
「はい?」
「いいえ…なんでもないです」
沙都子はハンカチで目尻を拭くと、顔を上げた。
「今日から、よろしくお願い致します。か…神山」
ぎこちないほどの主人っぷりに、思わず今度は神山が噴き出した。