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お嬢様と二人の執事

第15章 夜明け前

「そう硬くならないで。私も緊張してしまいますから」

そう言うと沙都子は高宮を見た。

高宮は紅茶をそれぞれに出すと、隅へ控えた。

ぺこりと智紀は高宮に頭を下げる。

高宮が頷くと、ほっとしたような顔をした。

「智紀さんの絵をまだ生では拝見してないのですけど、随分写実的ですのね」

「そうですね。僕は見たものを見たまま描くのが好きなので…」

「最近、兄さんは日本画にも挑戦しているんだよね?」

「そうだね。伊藤若冲に影響を受けてね。日本画を専攻していた友達が居るから、手ほどきを受けているよ」

「あら、じゃあこちらで先生を用意しますから、習いに行って下さい」

「は、はあ?」

「遠慮なさらず。高宮」

「はい」

「すぐに手配を」

「かしこまりました」

「いや…ちょっと…悟…」

「いいんだよ、兄さん。お受けしておきなよ」

「でも…」

「智紀さん、来年東堂の美術館ができます。それはご存知ですよね?」

「はい…」

「私は智紀さんの絵をメインにと考えております」

「えっ…!?」

「ですから、いくらでも腕を磨いていただかなければならないんです」

「そんな…」

驚いて口を開けたままで居る智紀の顔が、沙都子には滑稽に見えて思わず笑いが零れた。

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