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お嬢様と二人の執事

第15章 夜明け前

「名画を集めるつもりはありませんの。現代画を中心に、今の日本の芸術をお客様にご覧いただく美術館を目指しています。
智紀さんの絵はぴったりだと思うんですよ?」

「でもそんな大作、僕は描いていません」

「それはこれからお願いします」

「えっ…?」

「正式に依頼しますわ。東堂の美術館の為に挑戦して頂けませんか?」

「僕が…?だって、こんな無名の画家ですよ…?」

「わかっています。これは私どもの挑戦でもありますから」

きっぱりと言い切る沙都子に、智紀は言葉を失った。

「…見ての通り、私はまだ年が若いです。だから、一度や二度、失敗したっていいんです」

そう言って沙都子はにっこり笑った。

その笑顔は智紀の心を溶かしたようだった。

「参ったな…」

そう言って頭をボリボリと掻くと、神山の顔を見た。

「凄いな。おまえのご主人は」

「だろ。惚れるなよ?」

「はは…俺には高嶺の花過ぎるよ…」

そう言って沙都子を正面から見た。

「頑張ります」

素直な、好感の持てる態度だった。

沙都子はにっこり微笑むと、お茶のおかわりを高宮に命じた。

「買い取った絵も、美術館に展示させて頂く予定ですよ」

「そうですか。良かった。あれは僕の子供同然ですからね…。大事にして頂けて嬉しいです」

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