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お嬢様と二人の執事

第15章 夜明け前

次の日から、智紀の身の回りには変化が起こり続けた。

代官山のアトリエはあっという間に引っ越しされ、港区の屋敷に近い場所に移された。

三鷹のアパートも引き払われ、アトリエに近いところに移された。

「悟…こんなことまでしてもらったら…」

あたふたする智紀を、神山は笑顔で躱した。

「兄さん、沙都子様がこうしろと言っているんだ。なにを断るんだ」

「そんなこと言ったって、まだ作品を描き上げていないんだぞ!?」

「だからこれから描いてもらうための先行投資だよ。ね?代官山が良いって言うなら、そっちでも描いていいから」

「いや…そんなことないけど…」

途端に智紀は口ごもった。

絶対に戻りたいと言わないということは、親弘との関係は望んだものではないのだろうか。

少なくとも智紀はゲイではないようだと神山は判断していた。

それが証拠に、智紀は沙都子に興味があるようだった。

「沙都子様は、本当に恋人がいないのか?」

そんなことを神山に聞いてきたりする。

意味深な笑いで返すと、心底残念だという風に笑う智紀を見ていると、ゲイになったわけではないのだろうと思えた。

「兄さん、絵の具とかキャンバスとか、足りないものは全部東堂から支給されるから、遠慮無く言ってね」

「大丈夫かな…俺…」

「え?」

「こんなに恵まれてたら、絵、描けないかも…」

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