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お嬢様と二人の執事

第15章 夜明け前

そんな智紀の言葉とは裏腹に、作品はどんどん生まれた。

智紀の望む日本画の教師に加え、あらゆるジャンルの教師を智紀に付けてみた。

沙都子が高宮に指示し、神山が適当な教師を見つけてきた。

このプロジェクトは、東堂家も交えた大プロジェクトに発展して来た。

東堂で秘蔵している品も美術館に展示することになったからだ。

遡ると皇室と系譜の繋がる東堂には、幾多の文化財級の品があった。

自然、家令候補である神山も動くこととなったのだ。

智紀との連絡役にはうってつけだったと共に、智紀の良き理解者ともなった。

土が水を吸い込むように。

智紀の画力は上がっていった。

それとともに本来持ち合わせていた才能も開花した。

智紀の才能は特別な物のようだった。

常人の発想では出てこない手法で絵画を描く。

怖いものを見るような目で、教師たちは智紀を見ていた。

それが、一体どういう才能なのか、測りかねていたからだ。

そんなこと気にもしないで、智紀は毎日、一心不乱に筆を握り続けた。

飢えていた欲望を満たすように。



「え?できるだけ大きいカンバス?」

アトリエに訪れた神山に智紀が言い出したのは、年の瀬も押し迫った頃だった。

「うん。頼むよ」

「…それは長野に飾るものだと思っていいの?」

「…ああ」

その背中は、自信に満ち溢れていた。

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