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お嬢様と二人の執事

第1章 沙都子

「お祖父様…?」

「左様でございます。沙都子様」

「やめてください…私には、親類は居ないと聞いています」

神山と名乗る男は、沙都子の前に片膝を付いた。

「正真正銘、貴女のお祖父様です」

そう言うと、懐から手書きの戸籍謄本の写しを取り出した。

それは沙都子には思い当たることのない苗字だった。書類の下欄に付されている文章に目が止まった。


『平成5年 長女雪芽 結婚のため除籍』


「これは…母の名前です…」

「左様です。貴方のお母様は、東堂の家を出て、お父様と結婚されたのです」

沙都子の母の名は、雪芽という。

滅多にある名前ではない。

「でも…これだけでは…」

同名の他人ということもある。

まだ信じられないでいる沙都子に、神山は微笑んだ。

「よい事です。このようなことを容易に信じる沙都子様でなくて、安心いたしました」

微笑むと、温かい空気が溢れてくるようだった。

神山は、また懐から何か取り出した。

「こちらの名刺の弁護士事務所をお尋ねください。全て弁護士が説明いたします」

そう言うと、神山は沙都子に片膝を付いたまま頭を下げた。

とても、優雅な動きだった。

「沙都子様、どうぞお心を確かに…」

見上げた瞳は、憂いに満ちていた。

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