お嬢様と二人の執事
第1章 沙都子
大きな窓のある応接室に沙都子は通された。
成瀬にソファーに座るように促される。
沙都子はスカートの裾をすこし気にしながらゆっくりと腰をおろした。
きちんと膝頭をそろえ、長い脚を右に流して座る。
その仕草を成瀬はじっと見ていた。
事務所の女性スタッフが紅茶の注がれたティーカップをローテーブルに置く。
カチャカチャとなる小さな音が沙都子の緊張を表しているようだった。
女性スタッフが部屋を出たのを見計らって成瀬が口を開いた。
「さて、なにからお話ししましょうか?」
成瀬の顔に柔和な笑みが浮かぶ。
「そうだなぁ…すこし私の昔話に付き合ってもらってもいいかな?」
そういう成瀬に沙都子は無言で頷いた。
成瀬はまず、沙都子の父、雄介と母、雪芽への哀悼の意を示した。
そして沙都子の顔を見ながら言った。
「白濱さんは…東堂グループと言うものをご存知ですか?」
昔話をすると言った成瀬が突然、沙都子に質問を投げ掛ける。
「はい、もちろん」
素直に沙都子は答える。
大学生の沙都子はつい先日まで就職活動をしていたので当然知っていた。
有名商社を筆頭に金融や流通、食品、娯楽、果ては教育産業まで…。
東堂の名を冠さない企業も多くあるが、この国で生活していれば関わらないことはあり得ないと言うほど大きく有名な企業体、それが東堂グループだ。
「あの、それがなにか?」
有名な企業体と成瀬の話の関連性が見えない沙都子は怪訝な表情で成瀬に聞いた。