
お嬢様と二人の執事
第3章 もう一人の執事
しかし、沙都子はその笑みに心を開くことはなかった。
「高宮さん…。大丈夫です。少しお母さんたちのことを思い出してしまって…。」
沙都子は誤魔化すように言った。
本当は…寂しかった。
神山のいなくなったベッドは広すぎて持て余してしまう。
「そうですか…。なにかあれば遠慮なくお申し付けください」
人懐っこい顔で微笑む高宮に沙都子は小さく返事をしてまた物思いにふけるように俯いてしまう。
手の中のカップを見つめる沙都子。
その沙都子を見つめる高宮の表情が先ほどまでのものとは違うことに沙都子は気がつかない。
今の沙都子の頭の中は神山とのことでいっぱいで高宮がその笑みの裏で考えていることを思いやることなんて出来なかった。
しばらくして沙都子が高宮に休むと声をかけた。
それに従い、沙都子を寝室に送り届ける高宮。
ベッドに身を滑り込ませた沙都子の目元に高宮が程よく冷えた濡れタオルを
載せる。
「それでは沙都子様…おやすみなさいませ」
そう言って寝室のドアを出る高宮。
一旦閉めた扉をわずかに開く。
かすかに聞こえる沙都子の寝息。
その寝息を聞きながら高宮は少し前にこの扉から見た光景を思い出す。
そう…高宮は沙都子と神山の情事をこの扉から見ていた。
自らの望みをかなえるためのカードが手に入ったと悟った瞬間でもあった。
