お嬢様と二人の執事
第1章 沙都子
ハンカチで涙を押さえる沙都子を見ながら成瀬は続ける。
「雪芽さんは大学を卒業したあと、秘書と言う形で東堂会長の傍で働いていました。社会経験は必要だということで。」
成瀬はテーブルに置かれたカップを取ると口を潤す。
「その秘書課にいたのが雄介くんです。彼は非常に優秀で、若いのに良くできた秘書だった。だから会長もかなり可愛がってたしね。」
沙都子は真っ直ぐ成瀬の方を向き背筋をピンと張ったまま成瀬の話を聞いている。
「若くて有能な男女が常に傍にいれば…上司と部下の関係が変わっていくのも無理はない。
雄介くんは優秀だったが家族に縁のない子でね。
東堂さんはそのうちそれなりの家の人間と雪芽さんの縁組みをする予定だったんだ。」
そこまで言うと成瀬は沙都子に目を向けた。
「でも、その前に二人は結ばれた。そして…雪芽さんのお腹には君が宿った。正直に東堂会長に二人は話したそうだけど…会長は反対したんだ。」
固い表情で話を聞いている沙都子に成瀬が笑いかける。
「二人は宿った命を守るために、自らの想いを貫く為に…駈け落ちという手段を選択したんです。二人が行方を眩ませた後、東堂会長はいたく、後悔されて。
二人の行方はすぐに掴んだものの…見守ることにされたんです。
今は亡き奥様の助言もあったようですが…。」
そこまで話すと成瀬は改めて沙都子に提案した。
「東堂会長に会ってくださいませんか?」