イケメン夜曲 ~幸せの夜曲~
第2章 ティーカップ
(......それに、さっきの、 『貴族の争いに巻き込まれる』 っていう話も、どういう意味か、聞きそびれちゃったな)
テリザは重たい荷物を半ば引きずるように店の隅に持っていき、席に腰掛けてアレクをうかがった。
(......わぁ......)
テリザは、洗練された流れるようなアレクの仕草に目を奪われていた。
ただテーブルクロスを掛けたり、グラスを磨いたりしてるだけだけど...
(まるで、何だか......)
「アレクさんって......貴族みたいですね」
「......!」
テリザの何気ない呟きに、アレクは驚いた顔でぴたりと動きを止めた。
(あれ? どうしたんだろう)
その時...――カラン、とお店の入り口にあるドアベルが鳴った。
「......うるせーヤツが来た」
アレクがぼそっと呟く。
「おはよう、アレク。今日は遅刻ではないようだな」
ドアを開いて入ってきたのは、眼鏡を掛けた長身の男性だった。エメラルド色の瞳が眼鏡の奥からテリザを見下ろした。
「そんなことより、こいつの相手しろ」
いつの間にか無愛想に表情に戻って、アレクは店の奥へと入ってしまった。
(この人が、お店のマネージャーなのかな?)
テリザは席を立ち、眼鏡の男性の前へ出てお辞儀をした。
「あの、私...テリザと言います。
今日から、このお店で働かせてもらうことになっている者です」
「君がテリザか。話は聞いている。私がハルだ。この店のオーナーの執事だが、オーナーが忙しい方なので、その代理でマネージャーも務めている」
淡々とした言葉と同時に、彼は大きな手をテリザに差し出した。
(握手...ってことだよね)
テリザは、手袋をしたままその手を握り返した。