イケメン夜曲 ~幸せの夜曲~
第4章 皆との距離
「ええっ?!」
テリザは思わず大きい声を出してしまった。
「ダメか?」
明らかに動揺するテリザを面白がるようにラッドは尋ねた。
(絶対、からかってる…!)
そう気づくと、なんだか悔しくなってきて、テリザは胸を落ちつけて、フォークでパンケーキを一切れ差し出した。
「っ…どうぞ。」
手が震えているのがわかって、むしょうに恥ずかしい。それに気づいたのかはわからないが、ラッドはふっと笑い、それをくわえた。
(ぁ…)
「…甘いな。」
とろけるクリームを味わって、ラッドは呟くようにして言った。
「お好きな味でしたか…?」
「ああ。ありがとう。」
ラッドが微笑してペロリと口の端を舐める仕草がぞくりとするほど色っぽくて、またテリザの胸が騒いだ。
「…我慢、しなくていいと思います。」
「ん?」
テリザがぽつりと言うと、ラッドは聞き返した。
「好きなら、我慢しなくていいと思います。だって、その方が…ラッド様らしいと思いますから。」
その瞬間、彼の瞳の奥で何かがくすぶったような気がした。
「―――男には、意地があるからな。」
(…ラッド様。)
彼が違うことに関して言っていたのだろうか。そんな考えがテリザの頭をかすめた。
「…でも、ありがとな。」
子供にするように頭をなでられ、テリザは照れくさそうにうつむいた。
「そのままのラッド様が、素敵ですから。」
思ったままに口にする。
「兄ちゃんを口説く気か?困った子だな。」
冗談めかして返され、テリザは言葉に詰まった。
「わ、たしは…」
だけど彼が肩を揺らして笑っていることに気がついて、テリザはまたからかわれたのだとわかった。
「もう…。」
怒る気になどなれず、テリザは彼が笑っているのにつられて、微笑んだのだった。