イケメン夜曲 ~幸せの夜曲~
第4章 皆との距離
今夜ラッドの帰りは深夜になるらしいし、今日の昼間あったことの後だったから、彼とまともに顔を合わせられる気がしなかった。
―――家族...に何てなれない、のに…ましてや、それ以上の気持ちが芽生えたりしたらと思うと、怖かった。
「ハルさん。」
軽くノックをして呼びかけると、中からどうぞと聞こえたので、そっと戸を押した。
彼は机に向かっていて、何か書き込んでいる様子だったが、テリザが緊張気味にどうしようか窺っていると、くるりとこちらを向いた。
「テリザ…?」
予想していなかった来客だったらしく、彼は目を丸くした。
「あのっ…ごめんなさい、お邪魔でしたか…?」
「いや、丁度きりがついたところだ。」
彼はそう言ったが、三分の一ほど書きかけの用紙がちらりとテリザの目に入った。
「どうしたんだ?君から訪ねて来るなんて、初めてだな。」
(そういえばそうだな…。)
ハルは気にした様子も見せずに問いかけてきたので、テリザは口を開いた。
「えっと…何か本でも貸していただけないかと思って…」
「そうか。悪いが俺の本は薬学関係の物ばかりだからな。俺よりラッド様に借りたらいいだろう。ラッド様が帰られたら、俺から言っておこう。」
「えっ」
テリザは硬直した。が、ハルはそれを恐縮と受け取ったのか、手を伸ばし、テリザの肩にポンと置いた。