イケメン夜曲 ~幸せの夜曲~
第5章 閉ざされて
カジノのメインホールは、外見からは想像もできないほど人がひしめいていて、きらびやかな装飾が施されている。
「流石ローガンの奴、趣味の悪い内装にしてやがる。」
ラッドが毒づくのが聞こえて、テリザは顔を上げた。
「あの…もしかしてローガン様もここに来られるんですか?」
「いや、あいつはほとんど来ないらしいから、安心していい。」
ラッドはそっと腕を解いた。
(あ……。)
ぬくもりが離れ、テリザは少し胸がもやっとするのを感じた。
「俺たちは部屋の方を探ってくる。君はここで、言っていた通りに頼む。」
ハルに言い聞かされた。
「ああ、だが普通に楽しんでていいぞー?カードゲームならできるかな。」
ラッドはからっと笑った。
彼がひらひらと手を振って離れる様子は、まるでこれからピクニックに行こうと言っているようだ。
「どうかお気をつけて。」
小声で囁き、テリザは二人から離れていった。
(カジノなんて初めて入ったな…。)
どう動けばいいのかよくわからず、テリザはとりあえずあたりを見回した。
ルーレットやカードテーブルで、身なりの良い紳士淑女たちが興じている。
(リック…だっけ、その人。)
本来の目的は忘れていない。不自然にならない程度に視線をさまよわせ、なんとなくカードテーブルに近づいていく。
テリザは、ポーカーには強かった。今は賭け事をしている場合ではないが、いささか興味を引かれてはいる。
ポーカーをしている人たちの近くまで行ってみた。
手際よくトランプが配られ、プレイヤーがカードを手に取ると同時にふっと顔を上げると―――トランプを出していた人と、目が合った。
(……!)
心臓が止まったような気がした。