イケメン夜曲 ~幸せの夜曲~
第5章 閉ざされて
彼は驚いたように、わずかに睫を揺らした。彼の瞳孔が開くのが、確かにテリザの目に映った。
プラチナブロンドの髪、中性的な美しい容姿に、どこかアンニュイな雰囲気。間違いなかった。
(ユアン、様…!)
パニックに陥り、一歩下がると、ユアンの後ろで、こちらに背を向けた人の姿が見えた。
一度しか見たことはなかったが、威厳のあるそのたたずまいはしっかりとテリザの記憶に刻まれていた。
(ローガン様までっ…!)
テリザはとっさに顔を背け、不自然でないように立ち去ろうと、そっと踵を返した。
ユアンがローガンに声をかければ、すぐに捕まってしまうだろう。
その前に、一刻も早く離れなければ。
「…後、このテーブルを頼む。」
「え?は、はい。」
同僚に言い残し、ユアンは人込みの間を縫って行き、テリザに追い付くと、そっとその腕をつかんだ。
「テリザ。」
(……!)
テリザの瞳に、微かに動揺の色が走った。対してユアンはあくまでも落ち着き払った様子で問いかけた。
「どうして貴女がここに?それから、貴女は一体…。」
ゆっくりと彼に向くと、テリザは平静を装って答えた。
「…何のことでしょう…?私は、ただの貴族の者です。」
「……。」
ユアンは無表情のまま、じっとテリザの顔色を観察した。全てを見透かすような鋭さに、感情をあまり出さないテリザでさえ、流石に焦ってきた。
(どうしようっ…ここでバレたりしたら…。)