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イケメン夜曲 ~幸せの夜曲~

第5章 閉ざされて



「…そうか、わかった。」


ユアンは言った。


しかし内心で安堵しかけるテリザに対し、ユアンは冷静に言葉を続けた。


「今は、他人同士…そういうことにしておこう。」


(…!)


―――ばれているのに、黙っていてくれるということ…?


彼の意図をわかりかねて、テリザは戸惑った。しかしユアンは、すっと手を離した。


「家での暮らしは、どう?」


「え…?」


やわらかい声で尋ねられ、テリザは瞬きをした。


(カバーしてくれてるのか…。)


ハッと気づいた。


「ええ…。とっても、幸せです。」


正直には答えられないが。テリザは微笑んでそう答えた。


すると彼はふっと表情を曇らせた。


「……。」


(あれ…?)


彼は僅かに唇を開いた。


「俺の知っていた貴女は…そんな苦しそうな笑顔じゃなかった。」


彼のつぶやきは、テリザの耳には入らなかった。


「…?すみません、今何と…」


そこまで言いかけて、テリザはハッと息をのんだ。


(あの人…!)


ラッドに見せられた写真の人だった。彼はふらりとテーブルの席から離れると、ドアの方に向かっていく。


「すみません、用があるので…失礼致します。」


テリザが動揺を隠して言うと、ユアンは微かにうなずいた。


「ああ。何に巻き込まれているのか知らないが…どうか気を付けて。」


彼にお辞儀をして立ち去ろうとしたが…どうしても気になって、テリザは振り返って彼を見た。



「あのっ…どうして私を助けてくださるんですか?」


彼が微笑んだ気がした。


「貴女が気になったから。」




―――どういうこと…?


余計に疑問が残ったが、これ以上話している暇 (いとま)はない。

最後に彼の姿を目に焼き付けると、テリザはリックの後ろ姿を追った。ユアンが少しだけこちらを見つめたのち、人混みの中に消えていくのが視界の端に映った。


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