イケメン夜曲 ~幸せの夜曲~
第5章 閉ざされて
「待っ…あの、待ってください!」
リックが片手をドアノブにかけるのを見て焦り、テリザはまだ少し離れていたが、彼に声をかけた。
「……?」
ぴたりと手を止め、ゆっくりと振り返った男は、確かに彼だった。
「何かご用でしょうか。」
一見して、悪党とは見えない。ブロンズカラーの髪に、グレーの瞳。端正な顔立ちにも加え、思っていたよりもずっと若い。
「はい。突然ですみません…兄からリック様のお話はよく聞いておりましたから…。とても素敵な方だと伺っておりましたから、一度お話ししてみたくて。」
すらすらと嘘が口から出るが、心苦しくないとは言えない。
(っ…仕方ない、よね。)
心の中で自分に言い聞かせ、リックを見上げると、彼は微笑んだ。
「そうですか…。それは光栄です。」
彼は、エスコートのマナーの通り、テリザの方に手を差し出した。
「よかったらこちらでお話ししましょうか。」
テリザは内心の動揺と緊張を隠して、彼の手を取った。
「ええ、喜んで。」
さりげなく、ホールから廊下へとエスコートされていく。
『人目のあるホールから離れなければ、なんの危険もないだろう。』
ハルの言葉を思い出すが、今はローガンと鉢合わせてはいけないし、リックを見失うリスクも取れない。