イケメン夜曲 ~幸せの夜曲~
第5章 閉ざされて
ラッドは肘掛に手を乗せ、身を近づけて、片手でするりと彼女の頬を撫でた。
―――離したくない。あんなことがあったというのに。
「…….?」
テリザは気だるげに首を傾けた。
(どうしてだろう…嫌じゃ、ない。)
だけどラッドがそっと指をすべらせると、テリザはびくっと身体を震わせた。
「大丈夫…俺だ。」
優しい声に、また安心する。
彼がゆっくりと顔を近づけていることに、テリザは寸前まで気づかなかった。
ちゅっと儚い水音がして、唇のすぐ横にキスされたのだと、初めて理解した。
―――なんで。
重たい身体のまま、ラッドを見上げると、あのデートの時見たように、何かが彼の瞳の奥でくすぶっているのが見えた。
―――ああ。
気付いてはいけなかった。気付きたくなかった。
暗い絶望感と共に、最初から朦朧としていた意識が暗闇に吸い込まれていくのを感じる。
テリザは、眠りの底へと引きずり込まれていった―――。