イケメン夜曲 ~幸せの夜曲~
第5章 閉ざされて
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「…テリザ。」
しばらく後になって、警備員と一言二言交し終えたハルは、車に戻ってきた。
彼女は、ぐったりとしているのに全身が強張ったままラッドに腕に抱かれていた。
「…ハル、車を出してくれ。」
無言で運転席に着き、ハルは路地裏から車を出した。
ラッドは、意識を失ったテリザの背中を、なだめるように撫でている。
「―――ラッド様のせいでは、ありません。」
彼の胸の内を読んだように、ハルは言った。
「……。」
ラッドは黙ったまま、守るようにテリザを抱き寄せ、そして口を開いた。
「誰かのせいにしていても仕方ないのはわかっている。それより…もし、テリザが…」
ラッドは言葉を止めた。
ラッドがそれ以上続ける必要はなかった。ハルには、十分すぎるほどわかっていた。
しばらく考えたのち、ハルは言った。
「テリザは…自分の意志で、ここにいます。彼女も、ラッド様を苦しませたくはないはずです。」
ハルは、正しかった。しかし義理の兄に、その言葉のどれほどた届いていたのだろうか。
ラッドは、愛しむような眼差しでテリザを見下ろした。
そっと長い指先がたどった目元は潤んでいたが、涙の跡はなかった。
そのことがやけにラッドの胸を締め付けた。
(俺は…何てことをしてしまったんだ。)
口づけた時の、ショックを受けたような彼女の表情は、ラッドの脳裏に、強く焼き付いていた。
(テリザ……。)
ラッドはもう一度、彼女の身体をぐっと抱きしめた。