イケメン夜曲 ~幸せの夜曲~
第5章 閉ざされて
*
同じ頃、リビングルームでアレクはラッドに詰め寄っていた。
「…どういうつもりだったんだよ。あいつに無茶苦茶させやがって…。」
明らかな苛立ちを隠そうともしない物言いを、ラッドは何も言わずに聞いていた。
この二日の間、ラッド達はアレクに、テリザは体調を崩して出勤できないと言っていたが、テリザが一度もリビングルームに顔を出さないことに違和感を覚え、アレクはラッドから事の経緯を聞き出したのだった。
「大体、なんで俺に何も言わなかったんだ。」
アレクは鋭くラッドを睨んだ。
やがてラッドは口を開いた。
「アレク。君のことは信用しているが…君の出自は一生、嫌でもついてくるものなんだ。」
厳しい声で言われ、アレクはぐっと言葉に詰まった。
「…とはいえ、すまなかった。」
ラッドの言葉に、アレクは窓のそばに立ち、外に目を向けた。
(あいつ、は……。)
彼女の凍り付いた心の欠片を垣間見た気がした。
自分はどうでもいいと。どんな無茶をするのにも躊躇しない。自分への無関心さ。
それでも、なぜそうなのか、理由は見せない。
(貴族のふりをするって…何なんだよ。)
知らず知らずのうちにアレクは拳を握っていた。理由の見えない苦味が広がっていった。
「…それで、そいつの悪事の証拠はどうなったんだ。」
アレクは静かに聞くと、ラッドは真剣な表情のまま唇を開いた。
「…まだ足りない。引き続き調査をする。」
その言葉に、アレクの中で何かが切れる音がした。
「っざけんな…!」
アレクは一気に部屋を横切り、ラッドの胸倉を掴んだ。